四方山話
加齢とテクニック
2017.03.01
一般的には年を取るに従って、技術は衰えると言われていますが、果たして皆さんが思っているほど技術は衰えるものでしょうか?
筋肉のピークは20歳で、それ以後衰退の一途と言われていますが、それは主に下肢(下半身)についての事です。筋肉についていつも話題のなるのがスポーツで、確かにどのスポーツも下半身が丈夫でないと良い成績を上げることが出来ません。
しかし我々演奏者(特にギタリスト)は演奏するとき、さほど下半身を使うことはありません。
ある研究では、一般の人は20歳の時より40歳の時の方が、握力は増していることが実証されています。それは普段、物を掴んだり指をよく動かすからだそうです。噛む力も然りです。筋肉自体も負荷をかければ100歳まで発達することが近年明らかになりました。
さて皆さんの一番の悩みは何でしょう? 多くの人はこう言います。「若いときほど指が動かない。特にスケールが。」と。では何故と聞くと「歳のせい」と言う答えが返ってきます。本当にそれだけでしょうか? 歳のせいにするとある意味非常に楽です。何故ならそれ以上考えて悩む必要もなくなり、辛い練習をしなくても済むからです。
では本当に歳のせいなのか以下のことを確かめて下さい。
1.若いときは本当に速く指が動いていたのか?
人は年を取るに従って音にこだわりを持ち、質の高い物を求めどんどん洗練されていきますが、若い当時も質の高い音でスケール等をしっかり弾いていたのでしょうか?
私が思うに、たいがい音が小さかったり、弦に指を滑らせて楽音にならないような音で弾いていたに違いありません。
つまりほとんどが幻です!
ただ腱鞘炎やジストニアに指が冒されているのなら別ですが、若い時と同じような練習をすれば、ほぼ同じような成果を得られるでしょう。ただ疲労の回復度が違うため一日おきにやるしかありませんが・・・。
2.速く動いたと思っている歳に練習していた量と同じくらいの練習は今も続けているのか?
私が最も言いたいのは、このことです。スケールやセーハは運転免許証の様に一度取得すれば一生使えるという物ではありません。日々練習して更に能力を上げるよう努力しなければ高いレベルを維持できるものではありません。
以前、パコ・デ・ルシアがインタビューアに「スケールは若い頃、どれだけ練習したのですか?」という質問に「スケールはまともに練習したことはありません。」と言っていたのを聞き、「やはり天才は違うなぁ〜」と思っていたのですが、後日、お兄さんがインタビューアに「パコは小さい時、どんな少年でしたか?」と言う質問に「パコは明けても暮れてもスケールばかり練習していました。」と聞いてホッとした経験があります。パコは亡くなるまで人目を忍んでスケールの練習をしていたに違いありません。
質の高い練習をどれだけしたかによって決まるようです。
3.普段日常で素速い身のこなしを日に一度でもしているのか?
これは「脳」のお話しなのですが、脳は日々新しいことを取得するため、不必要な物(動作など)をどんどん削除していきます。よく言われるのが「加齢不器用」です。年を取ると物にぶつかったり動作が遅くなったりするのは、日常俊敏な動きをしないため、脳が不必要だと判断してその能力を奪うことに起因しています。ではどうすればいいのか? スケールの速い人は、日々速い動作をしていることになり、衰えることはほぼなくなりますが、速く弾けない人は、スケールでなくて良いのです。例えば両手首を思いっきり速く振るとか、身体の一部を思いっきり速く動かすことで、脳はこの人にはまだ速い動きが必要なのだと認識し、削除するのを後まわしにするのです。
4.上手くならないのは「歳だから」「指が短いから」「才能がないから」と言ってないか?
私は以前から「3から」と言っていますが、この3つの言葉は絶対に言わない・考えないよう生徒に言っています。これは心理学で言う「フレーミングの弊害」といわれるものです。
「ああだから」「こうだから」と人は無意識のうちに自分で枠を決めてしまっているのです。
一旦枠が出来ると、血の滲むような練習をしてもその枠から抜け出すことは出来ません。
よく大人は余計なことを考えすぎるから上達し難いのが実はこのことなのです。
練習して後退する物は何もありません。最悪現状維持です!「練習嘘ツカナイ!」です。
以上、4つのことをもう一度検証してみて下さい。それで速くならないのなら、練習方法が間違っています。
私はこの仮説の元、自身を実験台にして仮説の正当性を証明するため日夜努力しております。
<爪の話-2>(番外篇)
2011. 2. 7
(番外篇)
「爪の話 その2 かたち」
ギターを弾く人間にとって爪は大事な関心事の一つです。
『どんな爪の形にされていますか?』これが挨拶代わりに使われる程です。
確かに長い爪、短い爪、四角い爪、丸い爪、魔女の様に細く長〜い爪、かわいい爪等々色んなパターンがあり
コレが一番良い!なんて事は言えないですよね。
同じ指の形、同じ爪の形の人でさえ違う形に整えられている爪。
これはタッチやフォームが個々のものだからと思いますが
ただ言える事は、『何を求めるのか?』によって違ってくるのではないでしょうか。
つまり弾きやすさを重視するのか? それとも音質を重視するのか?
自分がどういう事を優先するのかによって自ずと決まってくるものかと思います。
最近のギタリストの傾向としては弾きやすさを優先させている方が多いと思いますが、何といってもギターの最大の魅力は音色なのですから少し寂しい気がします。
もちろん爪に合ったタッチ、タッチに合った爪も考慮しますが
好みの音!と調子良く弾ける!の折り合いを如何につけるかが分かれ目になっている気がします。
例えば短くて弾き難いけれどこの音が好き! は音が変化していないかを確認しながら弾きやすくなる所まで少しずつ伸ばす・・とか
長さ的には丁度良いはずなのに弾きにくい場合は、何故弾きにくいのか、どこが引っかかっているのかを根気よく探し出しそこを少しずつ削っていく(最近のライト付拡大鏡は結構選れ物も多い)
逆に長くてすらすら弾きやすいけれど音はあまり好きではない!ならば弾きながらどんどん色んな箇所を大胆に削っていく・・など
地味で時間のかかる作業ですが音と密接に関係する爪、もし音にこだわりが生まれたのなら、爪も一度見つめ直される良い機会かもしれません。色々と試してみる価値はあるはずです。失敗してもやり直しはききますしね!!
ただ右手のタッチするあたりの弦がギザギザになっているギターの方はもう少しだけ丁寧に磨き上げて下さいね。
因みに柴田:鷲爪、四角い形で極短、かなり硬い。
福山:丸い形で短く硬めの爪。
福山敦子
<爪の話>(番外篇)
2011. 1. 7
「爪の話」
冬になると乾燥からか皮膚が結構カサカサとなり、同時に爪が折れました!という話をよく耳にします。
これは、ギターを弾く者にとって辛いですよね。
最近ではハンドクリームやネイルクリームを専門に扱うお店も多く、品数豊富でサンプルも充分あり、一つ一つ試せる様になっていて面白いです。(自然派の中にも植物系、馬油、香り重視や持続性など色々な拘り派にも対応可能。)
手荒れ爪荒れにはそうやって保護するか、極力、水を使わない。という手もあります。
私の仲の良いギターリストは何十年も風呂で、手首から先は絶対に湯船に浸けず出しているそうです。
(そうすると確かに爪が変に伸びなくていいらしいですが・・・。)
またパートナーの柴田氏は知っているギターリストの中で一番爪が短く、しかも鷲爪です。
鷲爪なので短くしている、のだと思いますが、端で見てると気の毒な程神経を遣い形を整えています。
なので彼も演奏会前に思い通りの爪が仕上がっている時は風呂には浸からないそうです。
ですから本番が近いのに短くし過ぎた!という場合はたっぷり長湯をし、気をつけて上がったら一番に爪にクリームを与える、というのは如何でしょうか。
普段は粗めの金属で形を整え1500番で削り2000番でかなり艶も出し、仕上げは皮でピカピカにし最後はお気に入りクリームを一日何度も丁寧に塗り込む、こんな時期なので毎日わずかな時間でもきっと指は喜んでくれる様な気がします。
福山敦子
<お茶休憩>
2010.04.19 福山敦子
端から見ると指しか動かしていない様に見えるギタリストも立派な肉体労働者です。
なので口に入れる物には極力気を遣っています。
と、いうのも「今食べている物が10年後の貴方の身体を作ります」とか
「粗食は長寿」などと書かれている本を読むと
台所を任されている立場上”ひゃっぁ〜!!”と叫びたくなる位、食べ物の重要性が
ヒシヒシと伝わってくるからです。
その中でも最近の最もお気に入りの一冊は
石原結賓著「医者いらず」の食べ物事典(PHP文庫)です。
野菜、穀物、果実、魚介類などの各説明が面白く、
例えば
ピーマン:毛細血管を強化、爪や毛の発育に効果。などと書かれていて、すると
ピーマンを見る目も違ってくるし楽しくなっちゃいます。
もちろんビタミン何という種類を含んでいる等詳しく書かれています。
私はこの季節、無性に何故かショウガが食べたく毎日つまんでいます。
どうしてかなあ?と調べると気力、体力、免疫力を高める・・等々あり
ナルホド!どうりで今年は花粉であまり苦しんでいないなあ・・と、
とにかく買い物にもヒントをくれて寝る前には睡眠誘引までしてくれる・・
助っ人本です。
......to be continued or not
<技術は何歳まで向上するのだろうか?> 2(筋肉)
2009.11.30 柴田 健
例えば、i 指(右手人差し指)でギターの弦を弾く時を考えてみると、弾弦するには掌側の筋肉を収縮させることになる。しかしi 指には反対側(手の甲側)の筋肉も存在し、中指や親指側に動かす筋肉も存在する。つまり単純に考えると4方向に動かす筋肉が複雑に絡み合って一つの動作を行うことになる。
俗に言う「力を抜く」(脱力)とは、弾弦に関しては、掌側の筋肉だけを収縮させ、それ以外の筋肉は全て弛緩させておくことに他ならない。一見簡単に行っている(と思っている)行為も実は出来てる人はほとんどいない。
一般的に上手いと言われる人は、これらのことが自然に出来ていたり、訓練(知っている知らないは別)によって習得した人のことを言う。
本来人間は、筋肉が収縮していることは脳で知覚できるが、筋肉が弛緩してる状態は知覚できない。その弛緩している状態を知覚習得するのが「リラクゼーション」という分野である。その他、演奏家向けに書かれた「アレクサンダー・テクニック」や自己催眠法、ヨーガ、禅 etc.と書店に行けばリラクゼーション関係の書籍が数多く並んでいる。興味のある方は参考にしてください。
「ここで、脱力が出来たから演奏が上手くなるか?」と言うと、歯を磨いてから食事をするようなもので、本末転倒と云わざるを得ない。
「脱力が出来てないから演奏がうまくいかない」と言う人の中には、「実力をもうちょっと上げた方がいいのじゃないの!」と言いたい人が数多くいる。
ここに本番では実力が60%しか出ないと言う人がいるとする。その人が脱力法を収得し、本番で80%出せたとする。しかしこの人の実力は上がったわけではない。それより実力を150%にすれば脱力法を収得しなくても90%出せると言う変な理屈が成り立つ。つまり脱力法は①でも書いたが、弱点補強であって、レベルアップではないのである。
皆さん! 上達しにくくなったとき、「自分は脱力が出来ないからとか、・・・・だから」と言って練習方法がマンネリ化し、手を抜いていませんか? これも一種の回避行為である。
話は逸れるが、私はよく生徒から「私は才能がないから」「私は指は短いから」「私は歳だから」を耳にする。こういう人たちを私は「3から人間」と呼んでいる。こういう回避行為が染みついた人とはあまり話をしたくないものである。
脱力法も大事ではあるが、ここではまずレベルアップを図ることから述べることにする。
良い演奏をするには、技術が非常に大きなウエイトを占めることは間違いない。
演奏家はよくスポーツ選手に例えられる。確かに筋力をアップし、運動能力を上げることが実力につながるからである。ただスポーツ選手は運動能力の高いことが即結果につながるが、演奏家の場合、それは単なる手段でしかない所に大きな違いがある。しかし演奏家にとっても運動能力を上げることは必須であり、それを避けては通れない。
その前に「筋肉」とはそもそもどういうものであるかと言うことを知っておかねばならない。
筋肉は細い筋線維の集合体で、体を鍛えると最初は筋線維が太くなり、更に鍛えていくと筋線維の数が増えていく。逆に使わないとまず筋線維が細くなり、更に使わないと、数が減っていく。
筋肉は断面積1㎠当たり3〜4㎏の力を発揮する。これは全ての生物において殆ど変わらない。
筋肉の量は年齢とともに減りつづけ、一般に60才では20才の時の約75%になっていると云われている。
筋線維は大きく分けて「速筋線維」と「遅筋線維」に分類される。速筋線維は速く収縮し、発揮する力が大きいが疲労しやすい。遅筋線維は収縮力は遅いが持久力に優れている。速筋線維と遅筋線維の比率は遺伝で決まり、訓練をしてもこの比率は変わらない。しかし各々の筋肉は訓練によって運動能力を高めることが出来る。
一般的に男性は速筋線維が多く、女性は遅筋線維が多いと云われている。
マラソン・ランナーの筋肉は遅筋部分が多く、100mランナーには速筋部分が多い。遅筋線維は酸素を運ぶ血液が豊富なので赤く「赤筋」と呼ばれている。それに対して速筋線維は白いので「白筋」と呼ばれている。
魚の世界で見てみると、持久的に海遊し続けるマグロは「赤身」、瞬発力で俊敏に動くヒラメは「白身」なのである。
日本マラソン界の一時代を築いた瀬古利彦の速筋線維と遅筋線維の割合は3:7。日本人ばなれした
ストライド走法で驚異的な走りをみせた中山に至っては2:8である。そして天才スプリンターのカール・ルイスは8:2で速筋線維が多い。
カール・ルイスがマラソン・ランナーを目指していたなら彼の名は歴史に残っていなかっただろう。
......to be continued
<技術は何歳まで向上するのだろうか?> 1
2009.10.2 柴田 健
一言で言って、死ぬまでだろうか。自分の今のレベルと弱点を細かく知っているかが大前提になる。学者によれば、筋力アップは100歳まで可能だそうである。
音楽性においては、何もしなくても歳を重ねれば、それなりに向上していくものの、ことメカニックになると練習しない限りレベルアップは全く望めない。では何故音楽性は向上していくのだろうか。それは長く生きて行くと人生でいろんな経験を通して感性や思考が磨かれ、それが音楽に反映されるようである。音質や表現にこだわりが出てくるのもその所為である。コンクールを聴いていても、プロ部門よりも年齢の高い人が多い中級部門や上級部門の方が、ずっと面白いし勉強になる。
すぐれた演奏とは、豊かな音楽性とそれを引き出すテクニックがバランス良く両立していることである。プロの演奏家を目指す若い人は、技術偏重の傾向があるが、これはある面致し方のないことである。しかしこの状態が長期に渡ると大成は望めない。
一流の演奏家は、いつも音の向こうの音楽が豊かで明確に見えるが、そうでない演奏家は楽器だけを意識させ、音の向こうに見えるものが希薄であったり、薄っぺらかったりする。音楽性云々については又の機会に述べるとして、今回は誰もが気になるメカニック面に限って私なりの見解を述べることにする。
テクニックを向上させるには、大きく分けて2つ考えられる。1つは、自分の欠点(弱点)を補強してレベルアップを図ることと、もう1つは運動能力を上げてレベルアップを図ることである。
弱点補強から説明すると、プロとアマの大きな違いの一つに、自分の欠点に真っ向から直視し、立ち向かう姿勢の差がある。人間とは意識しない限り、嫌なことや自分の弱点に目を向けないように出来ているようである。例えば、スケールを弾くときiで弾き始める方が弾きやすいとか、mからスタートした方がうまくいくとかいうことはないだろうか? こういう人は片手落ちとは云わず、「片指落ち」という。スケールの先にどうしてもmで弾かなければならない音型が出てきた場合、逆算してどちらの指で始めるか決定しなければならず、好き嫌いは言ってられない。
次に自分が練習している曲とほぼ同レベルの曲で、何故か練習を避けている曲がある場合、その曲の持っている音楽が嫌いなのか、ただ弾きにくいから避けているか、そこの所をもう一度問い直して欲しい。そもそも音楽の好きな人間が、あの曲もこの曲も嫌いだということは、余り考えられない。曲の良さを認識できない場合もあるが、大抵は弾きにくいための場合が多い。こういう状態を、無意識に起こる「回避行為」という。回避行為はギターに限らず、生活面や仕事でも起こり得るので注意していただきたい。回避行為が癖になっている人は何事も成就できず、ギターに於いても俗に言われる「お嬢さん芸」で終わることが多い。まず嫌な曲から取り組んでいただきたい。そこにあなたを伸ばす鍵がある。
では具体的に基本中の基本からお話ししたい。まず「力を抜く」ことから。スポーツの世界でもよく言われる「力を抜け!」とは、実際すべての力を抜いていたのでは何もできないという屁理屈はさておいて、これはどういうことかと言うと、「必要な筋肉だけ力を入れて、使わない筋肉には力を入れるな」ということである。実はこれがすべてを語っており、これが出来る人はすでにプロ並みである。初回はシビアな話しになってしまったがお許し頂きたい。
......to be continued